百鬼夜翔異聞
夢想幻蝕
〜prologue〜
2000年3月1日。20世紀最後の卒業式の日。貴方はその場所に、友達とともに立っている。別れを惜しんで泣く者、学業を終えたことに清々しい表情を浮かべる者、未だ進路が決まらず悶々としている者――様々な想いが渦巻く、良く見られる光景。しかし、貴方にとってこの光景は、真に『何度も見た』光景だ。隣の席で泣く友達。演台から訓辞を述べる校長。披露される祝電。そして、常に変わらぬ『平成11年度卒業証書授与式』…そう、この光景は何度も繰り返されている。永遠の1999年度。細部の違いはあれども、卒業生が真に卒業することはない。
いつからこうなったのか…昨日からのような気もするし、もう一年…いや、何年もこれを繰り返しているような気さえもする。学校に入学してから出会ったはずなのにもう何年も前から知っているような気のする親友。付き合った事も無いのに何度もデートをした記憶のあるクラスメイト。永遠に進まない、僕らの青春。
この事実に気付いたとき、貴方の見える世界は大きく変わった。学校を中心に起こる不可思議な事件。貴方に接触してくる謎のクラスメイト。そして、人の目の届かぬ闇に潜むもの…「あしきゆめ」たち。
「この世界はループしているのよ」
白い少女はそう言って、貴方を見上げた。
「あしきゆめは、永遠に醒めないゆめを繰り返すのよ。それはニンゲンにとってここちよいゆめ。でも、何より大事な未来をなくす、とってもわるいゆめ…」
少女の黒い瞳はとても悲しそうに貴方を見つめる。
「あなたは、よきゆめ…闇を払う、希望の光。未来を開く、ゆめの導き手。お願い…この世界を守るため、あなたの力を貸して…」
何故こうなったのかは分からない。長い夢を見ているような気がする。しかし、少女の言葉を聴いたときに、まどろみの時間は終わりを告げた。このゆめがよきゆめなのかあしきゆめなのかは分からない。
それでも、ゆめは必ず覚めなきゃならない。それが本当に『良き夢』で終わる為に。
貴方は立ち上がる。永い夢から醒めるため。目の前でずっと待ちぼうけを食らっている未来に辿り着くために―
〜epilogue〜
白い少女ユミと、黒い少女マミ。彼女達は村瀬麻由美という少女の側面だった。
世界は彼女が見ていた夢。彼女が目覚めると共に消えうせる。
そして舞台は現実世界に移り、皆は普通に過ごしていた。まるでそれまでの戦いなど無かったかのように。
だが…
『……待ってるから…!』
少女の呼びかけに、再び集う九曜の、黄昏の戦士達。
彼らは現実世界に姿を現した『滅び』の使者を退け、今度こそ未来を手にする事が出来るのか!?
九曜ラストエピソード前中後編を見よ。
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百鬼夜翔異聞
夢想幻蝕
the
Dream to Corrode
〜prologue〜
21世紀を迎えてはや数年……
世紀が一つ進んでも、人類の生活には大して変化は見られないようだった。
幾つかの大きな事件が起き、相変わらず紛争が起こり、技術が少しだけ進んで、世界は新たな局面を迎えたりはしたけれど、これまで続いてきた人類の歴史から見れば、どれも大した変化ではない。
多くの人々はこれまで通り生活し、これまで通り競争し、これまで通り楽しんで、これまで通り死んで行く…
そんな変わらない世界の、変わらない日本の、特に変哲も無い地方都市・夜舞(よるまい)市。夢群(ゆめむら)学院大学を中心とした、古い歴史がある事と遺跡が多い事を除いてはこれと言って特徴も無い学園都市である。
この街は現在、若干今までとは大きく変わる出来事を経験していた。
『ゆめの侵蝕』―――
世界における『夢』と『現実』の境界が曖昧になり、人々の空想や思念の産物である『ゆめ』が、この世界に現出し始めているのである。ひとたび『侵蝕』が起きれば、我々の生きる『現実』に『ゆめ』の産物が溢れ出し、現実ではありえない『ゆめの法則』が世界を支配する。若しくは、我々の生きる『現実』の一部だけが切り取られ、『ゆめ』の世界に閉じ込められてしまう事も有りうるだろう。
――と言っても、この『侵蝕』は、多くの人にとっては実感があるものではない。殆どの市民は、自分たちの街に何かしらの変化が起こっているのも気付かずに、普段通りの生活を送っている事だろう。
何故ならば、現出した『ゆめ』の記憶を持ち続ける事は、通常の人間には不可能だからだ。目覚めると夢の内容を忘れてしまうように、普通の人間は侵蝕が終わり、現実が姿を取り戻すと、『ゆめ』の出来事を全て忘れてしまう。
……ごく一部の人間を除いては。
現出する『ゆめ』を認知し、『ゆめ』の力を扱う事の出来る者たち――それが、『異能者』と呼ばれる者たちである。彼らは時に、魔術師や退魔師、超能力者、異能者などとも呼ばれ、その力を持って現出した『ゆめ』を鎮め、『夢』と『現実』の狭間を守る。
この世界で目覚めた貴方たちも、その一人である。
『ゆめ』の力に目覚めた者は、ある夢を見ると言う。夢の状況や内容は千差万別だが、その夢の最後には、必ずある一人の“少女”が出てくる。そしてその少女は、夢の中に出てきた“想い出の品”を差し出して、語り掛けてくるのだ――
「ようこそ……夢と現実の狭間へ。
貴方が“よきゆめ”になるのか“あしきゆめ”になるのかは分からないけど、
歓迎するわ―― 」
銀色の髪と目をしたその少女は、見掛けより遥かに大人びた仕草で優雅に礼をすると、貴方の手に夢の中の“想い出の品”を握らせる。
「それは、貴方の『ユメのカケラ』――貴方の『ゆめ』と『現実』を繋ぐもの。
大事にしてね―― 」
少女の手が貴方から離れると、その声は急速に遠くなる。
「Everything is but a dream within a dream ――
もしも、全ての夢が覚めてしまったら――その時また、会いましょう 」
そこで夢は終わりを告げ――
目覚めると、貴方の手には少女の渡した『ユメのカケラ』だけが残されているのだ――
『ゆめの侵蝕』、夢の少女、そして『ゆめ』の力――これらが一体どう言う物なのかは、はっきりとは分からない。
しかし確実なのは、現実に自分たちの街が、そして世界が、『侵蝕』を受けていると言うことだ。
世界の為、友達の為、自分の為――理由は様々。何にしても、『ゆめ』の力に目覚めた貴方は、この現象に立ち向かわなければならない。『ユメのカケラ』をその手に握り締めて――
〜epilogue〜
護国会の一部の家の暴走により夢想樹は損なわれ、その跡地にかつて無いほど巨大な『虚の穴』…この現世界をゆめの世界と隔てている壁に開いた穴…を生み出す事となった。駆けつけた夢幻会メンバーと夢群学園の生徒の手により暴走した当主は討たれ、夢想樹の姫の力で一時的に『虚の穴』を塞ぐことは出来たが、夢想樹という巨大な『栓』の存在が消失した場所への圧力は尋常ではなく、再び『虚の穴』が開くのは時間の問題かに見えた。
しかし、身内の暴走を知り急遽全国から終結した護国会の当主達十余名は命を賭して『虚の穴』の最封印に挑みこれを成し遂げる。だがその代償は大きかった。当主達はみな傷つき、力尽き、あるいは異能を失い6名のみが残った。人的損害のみならず彼らが秘して護り伝えてきた秘法や秘宝も砕かれ、さらに責任追及の余波を恐れて彼らを国家権力と繋いでいたパイプの多くが断ち切られる事になった。
幸いな事に、夜舞市は地震に見舞われたものの物理的な被害は少なく、混乱も無く再び日常へと戻っていった。
それはつかの間の平和。世界は停滞したとしてもそのまま留まり続ける事は出来ないのだから。
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