グラスの中の氷が融けてカラン・・・と音を立てる。

 少し暖房が効きすぎた店内、窓際には先ほど列車から降り立った

二人の姿があった。

 駅から程近い小さな喫茶店。まだ時間も早いためか、店内には彼

女達以外の客は居ない。年長の女性が立ち上がるとカウンターに

いてあった新聞を手に取り、読みながら戻って来る。

 テーブルで窓の外を眺めていた少女は向き直ると尋ねた。

千鶴姉さん・・・どうしたの

 その女性・・・柏木 千鶴は暗い表情で席につくとテーブルに新聞を

広げた。地方紙らしいその新聞の一面を飾っているのは、現在巷

騒がせている連続猟奇殺人事件の新たな犠牲者の事だった。

 とても人間の力では為し得ない殺し方、捜査の裏をかくかのように

神出鬼没な犯行、そして犠牲者達には何の関連性も認められない

など、まったく不可解な事件だった。

 だが、二人は知っていた。それらの殺人がまさしく人ならざる者、彼

女達と同じく柏木の血を引く『』の手によるものだという事を。そし

それは彼女達の従兄弟である柏木 耕一に他ならないのだという事を。

 訪れる沈黙。その場の雰囲気にそぐわぬ明るい感じの曲が店内に

設置されたスピーカーから流れていた。

楓・・・

 千鶴が俯いたままの少女に声をかける。

休んでいる暇はないわ

 妹を気遣う素振りも見せず、荷物をまとめ始める千鶴。だが、未だ

こうとしない楓にその手を止める。

今までに無いほど近づけているはずよ。少しでも早く、耕一さん・・・

いえ、あの『鬼』を止めなくては新たな犠牲者が増えるだけだわ

 まるで、自らにも言い聞かせるかのように語りかける千鶴。

楓・・・分かってちょうだい。その方が耕一さんにとっても・・・

 言葉に詰まる。先ほどまでの冷徹な雰囲気は消え失せていた。楓

は何も言わずただ、僅かにこくりと頷くと立ち上がった。

 

 外に出ると、一際冷たい風が二人を煽る。

いまにも雨の降りそうな空模様になっていた。この寒さからすると、

になってもおかしくないだろう。

 二人は無言でそのまま街の中心部へと向かう。

 誰も居なくなった道路を、ただ風だけが吹き荒ぶ。